シューマン ピアノ協奏曲 イ短調作品54

ジャン!というオケヒット。

いきなり奈落の底に突き落とされるように、悲劇の始まりを彷彿とさせながら下降するピアノの音。

それに続いてオーボエによる甘美なメロディ。まるで対話のように同じ旋律をピアノが奏でる。

不安を煽る衝撃的な始まりで、いきなり心をつかまれてしまう。。。

クラリネットとのかけあい、フルートやオケとのかけあいがありながらも、随所で登場するオーボエとの対話が、私にはシューマンと奥様クララとの物語のように思えてしまいます。

シューマンはピアニストを目指して著名なピアノ教師フリードリッヒ・ヴィーク氏に18歳で弟子入り。
恩師にはクララという天才的少女ピアニストとして脚光を浴びた娘がいて、やがて二人の間には恋愛感情が生まれ、婚約をしたもののフリードリッヒの逆鱗に触れてしまい交際を禁じられてしまう。

二人は訴訟まで起こしてようやく結婚。シューマン30歳、クララ20歳という10歳の歳の差。

シューマンが唯一、世に向けて遺したこのピアノ協奏曲は、シューマンが35歳の作品で、妻クララのピアノで初演されたそうです。
実はこの第一楽章は「ピアノと管弦楽のための幻想曲」として、ちょうど二人が結婚することができた頃に創られた曲。その後新たに第二楽章と第三楽章(休みなく続けて演奏されています)を書き加えて完成させています。

まるで紆余曲折で波乱に満ちた二人の愛がようやく成就したように、ハッピーエンドを迎えるこの曲。
演奏会で聴くのがいつも楽しみになる、曲のひとつです。

当時のピアノ協奏曲のスタイルは、あくまでもピアノがメインでオーケストラは従属的なものでしたが、この曲では両者が引き立て合いながら音色としても調和が取れたものとなっているように思われます。
その点ではラフマニノフのピアノ協奏曲に大きな影響を与えたのではないだろうか?と勝手に思っていたりします。

楽譜は国際楽譜ライブラリープロジェクトからPDF形式のものが入手可能です。